大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和26(れ)2332 判決

主 文

本件各上告を棄却する。

理 由

被告人Aの弁護人工藤精二の上告趣意第一点について、

所論一は原審手続の単なる訴訟法違反を前提として憲法三七条一項に違反すると

主張するのであるが、同条項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とはその構成組織

等において偏頗のおそれのない裁判所の裁判を意味するものであつて、個々の事件

につきその内容実質が具体的に公正妥当な裁判を指すのでないことは当裁判所の既

に判例とするところであるから、所論違憲論はその理由がない(昭和二二年(れ)

第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、昭和二二年(れ)第一七一号同二三年五

月五日大法廷判決参照)。また、所論二は第一審第一〇回公判期日における証人B、

同Cの訊問手続の不適式を理由として、原判決が右証人の第一審公判廷における供

述を証拠としたことは憲法三七条二項に違反すると主張するのであるが、同証人等

は原審においても被告人側の申請により第三回公判期日に証人として喚間され、適

式の取調を受け被告人に十分に審問の機会が与えられたことは記録上極めて明かで

あるから、右違憲論はその理由がない(昭和二三年(れ)第八三三号、同二四年五

月一八日大法廷判決参照)

なお、本件論旨中その余の点は刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

同第三点について、

憲法三七条一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」の意味については、論旨第一

点の一についてその前段に説示したとおりであり、従つてまた刑訴施行法三条の二

が旧刑訴事件について上告理由を制限したからといつて、右憲法の条規に違反する

ということのできないことも前示大法廷判決の趣旨に徴し極めて明かであつて、論

旨は理由がない(なお、昭和二六年(れ)第二〇一七号、同年一二月二五日第三小

- 1 -

法廷判決参照)

同第二点及び第四点は刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

同被告人の弁護人徳岡一男の上告趣意第一点及び第二点は、いづれも刑訴四〇五

条の上告理由にあたらない。

同被告人の弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について、

原判決がその存在を証拠とした所論拳銃及び実包(昭和二三年押第二八七一号の

五、六)は昭和二三年六月一日頃より同年七月五日頃までの間に、原審相被告人た

るD、E、F、被告人及びG等の手中を転々とし、Gの占有中に押収されるに至つ

たもので、原判決が被告人において判示日時判示事務所で所持していたと認定した

その拳銃及び実包であることは記録上極めて明かであるから、右拳銃等の存在する

ことは被告人の所論自白にかかる事実の真実性を保障するに十分である。即ち原判

決は被告人の自白だけで所論犯罪事実を認定したもではないから、憲法三八条三項

違反の論旨はその前提を欠くものであつて、採用することを得ない。

同第二点乃至第五点について、

論旨第二点は憲法違反を主張するけれども、その実質はその余の論点と共に刑訴

四一一条に該当する事由のあることを主張するものであつて、いづれも上告適法の

理由と認められない。

被告人Hの弁護人遊田多聞及び同高田完の各上告趣意は、いづれも刑訴四〇五条

の上告理由にあたらない。

被告人Eの弁護人米村嘉一郎の上告趣意第一点について、

原判決は別段論旨引用の判例と相反する判断をしたものとは認められないばかり

でなく、右引用の判例も、原判決のような証拠説明の仕方を違法であるとしたもの

ではない。また論旨引用の最高裁判所規則六条は本件の場合に適切でない。従つて、

論旨は採用することができない。

- 2 -

同第二点について、

証拠の取捨判断は憲法三七条二項の制限の下に、健全なる合理性に反しない限り、

事実審裁判官の自由なる裁量に委されているところであり、憲法自体は直接審理主

義を規定したものでないことは当裁判所の数多くの判例の趣旨に徴して明かなとこ

ろである。そして、所論旧刑訴四〇五条は右の自由裁量を前提として控訴審裁判所

が採用した証拠をその判決に示す方法を規定したにすぎないものであり、原判決の

証拠の取捨が健全なる合理性に反するとは認められない。従つて、論旨はその理由

がない。

同第三点は刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

被告人Iの弁護人山田嘉八、同伊藤修佐の上告趣意第一点について、

論旨の理由のないことは、被告人Aの弁護人工藤精二の上告趣意第一点の一につい

て説示したとおりである。

同第二点は刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、記録を調べても、本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由あるものとは

認められない。

よつて、刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見を以つ

て、主文のとおり判決する。

昭和二七年五月九日

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 霜 山 精 一

裁判官 栗 山 茂

裁判官 小 谷 勝 重

裁判官 藤 田 八 郎

裁判官 谷 村 唯 一 郎

- 3 -

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!